2025.03.14 10:14「原始林」の誌面より(2025年4月)2025年4月号 ≪ 連載 ≫ 歌集散策 井原茂明 小島ゆかり『はるかなる虹』(1) 小島ゆかりは1956年生れ。コスモス短歌会の選者、編集人。『はるかなる虹』は第16歌集である。2020年歳晩から2024年新春までの作品のなかから468首を収めている。今回はその(1)について紹介する。茹であげて毛ガニをひらく刻々を窓に迫れる夕雲のむれ (アプリと穴)できかけの歌を画面に並べをり古獺の祭りのごとく ( 〃 )枯原をひとり行くとき天空は穴なりふりあふぎてはならず ( 〃 )捨てどころなくてしばらく持ち歩く空き瓶のなかの今日のゆふやみ ( 豆乳鍋 )豆乳鍋食べて白濁するやうなからだ...
2025.02.18 01:06「原始林」の誌面より(2025年2月)2025年2月号 ≪ 連載 ≫ 歌集散策 井原茂明 吉川宏志歌集 『雪の偶然』 ( 6 ) 吉川宏志は1969年生れ。宮崎県出身。塔短歌会主催。前川佐美雄賞、寺山修司短歌賞 などを受賞。歌集『雪の偶然』で第58回迢空賞を受賞。2015年から2022年までの 作品、555首が収めてある。今回はその(6)である。えごの花白く吊らるる枝のあり雨の伝わる路となりつつ ( えごの花 )陽を追いて読書したりし床黒く本居宣長旧居に入りぬ ( 十字鈴 )目薬もまた冷えてゆく秋の夜のゆびにまぶたをおしひろげつつ ( 〃 )ひらくたび水が灯れり冷蔵庫の小さきを据えて娘は住みはじむ ( 焼餅坂 ...
2025.01.26 02:21「原始林」の誌面より(2025年1月)2025年1月号 ≪ 連載 ≫ 歌集散策 井原茂明 吉川宏志歌集 『雪の偶然』 ( 5 ) 吉川宏志は1969年生れ。宮崎県出身。塔短歌会主催。前川佐美雄賞、寺山修司短歌賞 などを受賞。歌集『雪の偶然』で第58回迢空賞を受賞。2015年から2022年までの 作品、555首が収めてある。今回はその(5)である。 うしろむく人の眼鏡ははみ出せり冬の夕焼そこに溶けゆく (うしろむく人) 道すべて封鎖されたる武漢にも梅咲きおらむ映されざりき ( 〃 ) ゆうぐれに見えざるものを洗いゆく指のあいだに指を入れつつ (みなし子、水面) 仏像を見ぬまま春は過ぎゆけり指のあいだに滲める闇も ...