2025.03.14 10:14「原始林」の誌面より(2025年3月)2025年3月号 ≪ 連載 ≫ 歌集散策 井原茂明 吉川宏志歌集 『雪の偶然』 ( 7 ) 吉川宏志は1969年生れ。宮崎県出身。塔短歌会主催。前川佐美雄賞、寺山修司 短歌賞などを受賞。歌集『雪の偶然』で第58回迢空賞を受賞。2015年から2022年 までの作品、555首が収めてある。今回はその(7)である。坂の半ばより古き家残りおりここまで来たる津波を聞きぬ ( 気仙沼 )灯のなかにくだら百済観音たたずめり樹皮の剥がれしごとき微笑み (かんぜおん)氷雨降る 人をあきらめさせるため〈偶然〉という言葉使いぬ (雪の偶然 )泣き叫ぶ母親の肩は抱かれたり誰も代わりてやれず戦死は ...
2025.02.18 01:06「原始林」の誌面より(2025年2月)2025年2月号 ≪ 連載 ≫ 歌集散策 井原茂明 吉川宏志歌集 『雪の偶然』 ( 6 ) 吉川宏志は1969年生れ。宮崎県出身。塔短歌会主催。前川佐美雄賞、寺山修司短歌賞 などを受賞。歌集『雪の偶然』で第58回迢空賞を受賞。2015年から2022年までの 作品、555首が収めてある。今回はその(6)である。えごの花白く吊らるる枝のあり雨の伝わる路となりつつ ( えごの花 )陽を追いて読書したりし床黒く本居宣長旧居に入りぬ ( 十字鈴 )目薬もまた冷えてゆく秋の夜のゆびにまぶたをおしひろげつつ ( 〃 )ひらくたび水が灯れり冷蔵庫の小さきを据えて娘は住みはじむ ( 焼餅坂 ...
2025.01.26 02:21「原始林」の誌面より(2025年1月)2025年1月号 ≪ 連載 ≫ 歌集散策 井原茂明 吉川宏志歌集 『雪の偶然』 ( 5 ) 吉川宏志は1969年生れ。宮崎県出身。塔短歌会主催。前川佐美雄賞、寺山修司短歌賞 などを受賞。歌集『雪の偶然』で第58回迢空賞を受賞。2015年から2022年までの 作品、555首が収めてある。今回はその(5)である。 うしろむく人の眼鏡ははみ出せり冬の夕焼そこに溶けゆく (うしろむく人) 道すべて封鎖されたる武漢にも梅咲きおらむ映されざりき ( 〃 ) ゆうぐれに見えざるものを洗いゆく指のあいだに指を入れつつ (みなし子、水面) 仏像を見ぬまま春は過ぎゆけり指のあいだに滲める闇も ...