2026.08.21 09:13「原始林」の誌面より(2026年8月)2026年8月号 ≪ 連載 ≫ 歌集散策 井原茂明 永井陽子歌集『小さなヴァイオリンが欲しくて』(1)この歌集は遺歌集である。「短歌人」の有志によって、永井が48歳で亡くなった9か月後に発行された。今回はその「1」について紹介する。誰かくる誰かたしかにこの家へ来るぞと夜の笛吹きケトル (花吹雪)1993年雑草のままに埋もれてなんとせうアメリカオオバコぐんぐん伸びる(大曲) 々くたびれたたましひたちのつばさにも似たるくつした星空に干す(くつした)々父の鋸、はがねのにほふ曲尺も母のじようろも月光の中 (引越し騒動)1994年コンドルは甲(きのえ)の戌の禿頭あたたかき陽に晒してをりぬ(コンドル)々エレベーターの底にこごまり拾はむ...
2026.07.18 02:09「原始林」の誌面より(2026年7月)2026年7月号 ≪ 連載 ≫ 歌集散策 井原茂明 永井陽子歌集『てまり唄』(3)『てまり唄』、今回はその「3」について紹介する。にんげんの姿かたちは流れゆく雲にも如かず 空の歳時記 ( 空の歳時記 )ぽわぽわとうつけた風が吹くからに肩へ触れくる白はなみづき ( てまり唄 )人生の冬の季節といふ季節生きてつくづく身はほそりたり ( 〃 )光の矢つがへてぎりと引きたれば海は紺青の壁ひるがへす ( 〃 )日曜はゆめの領域にて暮らしてのひらなどに書く「のりしろ」と( 乗りしろ )こころねのわろきうさぎは母うさぎの戒名などを考へてをり ( 兎 国 )鹿たちも若草の上にねむるゆゑおやすみ阿修羅お...
2026.06.26 23:13「原始林」の誌面より(2026年6月)2026年6月号 中山周三賞受賞作品 「季はまためぐり」 村田正則≪ 連載 ≫ 歌集散策 井原茂明 永井陽子歌集『モーツァルトの電話帳』 永井陽子は1954年生れ。2000年死去、享年48歳。歌集に『樟の木の歌』、『ふしぎな楽器』,『モーツァルトの電話帳』、『小さなヴァイオリンが欲しくて』などがある。『樟の木のうた』は永井陽子三〇歳のときの歌集である。若くして父を失い、母と二人の暮しの中、私性を遠ざけ非日常の世界に韻を刻む。作品は石川美南編の『永井陽子歌集♯』より選び出した歌集『てまり唄』(河野愛子賞)。44歳の時の作品から紹介する。その(2)である。春過ぎてひかりのなかにものを言ふ棕櫚の木橡の木匂ひ檜葉の木 (...